創作 》 フルコース
守る人がいると人間は強い、なんて 守られてきた人の言葉なんだろう。 真実はきっとその逆で。 強い人は守られていて、 温かい帰る場所がある。 それがすべてのように感じてしまう。 守るべきものもなく、 帰る場所すらない。 わたしは世の理から外れてしま…
その優しさが、世界中で私にだけ向けられるものならいいのに。 そう思ってしまう私は醜いのだろうか。 憎しみや恨みは溢れるほど独占できるのに。 万人向けのありふれた優しさじゃ物足りない。 私のことを頭のてっぺんからつま先まで理解して 今の私の心情を…
雨に打たれてすっかり冷えて 心細くなって暖をとろうとしたところで それはたかが知れていて どんなに身体をさすっても 手のひらが痛くなるだけだった いつの間にか隣にいた彼が微笑んで言った 「ごまかしてもだめだよ」 ふっと胸が熱くなる 「ぼくらは内側…
梅雨は命を潤わせる。 雨を喜ぶ生き物たちがいる。 そして雨がやみ日が強くなり、今度はそれを喜ぶ生き物たちがいる。 みんなどこかに生きやすい季節を持っている。 神様、もしもあなたがいるのなら 私が生きやすい季節はいつ作ってくれますか。 温まったか…
人はどんなときに泣くのだろう。 悲しいとき。 嬉しいとき。 感情があふれて涙になるのだとしたら、 こんなにも胸を満たしている虚無は私が感じているものではないのかもしれない。 何もないわけではなくて、確実に何かが息をつまらせている。 あふれるほど…
梅雨の真っ只中、 冷たい雨の酷い夜、 俺は女の子を拾った。 その日もいつも通りに仕事を終え自宅へ車を走らせていた。 もう6月中旬ですっかり日が長くなってきたのだが、6時の空は雨のせいですっかり暗い。 視界の悪さに少しうんざりしながらいつもの道を…