こためも。

嬉しいこと、悲しいこと、うまくいかないこと、ちょっぴり達成感を得られたこと、そんなことをゆるっと書き連ねていたり、カレーへの愛を語ったりしています

【UAnd】新人営業ガール−3

 

 

朝礼後、私は一番バックに近い接客ブースで手続きの準備を進めていた。

 

フロアには横幅は広くないが奥行きのある構造になっている。

一次対応としてお客様に手続きの内容確認や待ち時間がある場合に待っていただく待合席のある入り口側半分の待合ブース。

二次対応をして具体的な手続きなどを行う接客ブースは半個室のように1mほどの仕切りで3方向を囲まれている。

 

自分の使うブースに商材を持ち込んでいると、ショウタ先輩が様子を見にきてくれた。

 

「ミナガワ、準備できてるか。お客様入ってきたら店舗入り口から見て奥側にお客様を座らせて、自分はその右側に座る。商材やツールはお客様から見えないように、お客様の向かい側の座席を開いてミニテーブルにしてその上に置く」

 

「はい!」

 

「今回はご予約頂いてるから、お客様対応の前に情報を頭に叩き込むんだ」

 

「はい、お名前は覚えました、ムラカミ様です」

 

ブース入って奥側の席に座り、白木調のテーブルの一部に埋め込まれてある虹彩認証装置を覗き込む。

 

すると目の前に薄く水色がかった半透明のウィンドウがふたつと手元にキーボードが展開された。

 

裏側はもちろん、真正面以外からは見えないよう特殊処理がされている。

 

「はい、ひよこ開いたら真ん中列の右側、予約業務を開く」

 

ひよこ、正式名称HIYOKOというのはアンドロイド販売システムの名前だ。

 

初期版はEggsという名前だったようだが、バージョンアップに伴い名称変更があり現在のようになったらしい。

 

ローマ字表記なあたりが絶妙にダサく、販売員たちからはネタとして好かれている。

 

「予約確認開いて、今日の10時からの予約欄見て、そこをタップ」

 

隣に座っていたショウタ先輩がウィンドウを覗き込む。

 

近い。

 

ショウタ先輩は営業成績がかなり良く、外見も綺麗で他店にも広く知られる有名人だ。

 

だが、隣に座って仕事を教わるなんて緊張する、なんてことは一切ない。

 

そんなこと言ってられないくらいに仕事で手一杯なのだ。

 

「そしたら予約情報が出てくるけど、特に備考欄に記入ないな。顧客詳細押して」

 

「ご家族情報を開いて。今日の予約入れてるのはおじいちゃんとおばあちゃんで保有機体は1体か。お子様のご夫婦は別で同じ家事用を1体持ってるから完全に2人専用で持ってるんだな」

 

「利用機体欄開いて。利用年数4年、買い替えどきだな」

 

「機体情報押して。受信データとしてはメモリの容量不足と各部品の磨耗、オイル不足」

 

「サービス情報は?追加サービスは内蔵レシピ追加2だけか。基本サービスは……なしかぁ」

 

その後も情報を確認し、ひととおり見たところでショウタ先輩が追加で商材ツールを持ってきた。

 

「よし、今日の応対の目標。まず、補償キットだけは営業かけて獲得してくれ」

 

「はいっ。補償キットは、修理補償・自己診断システムのふたつで月々780円です」

 

「そうそう。それがαな。βは?」

 

「αの機能と、さらにオペレーター問い合わせ可能になります。月々980円です」

 

「よし。このご夫婦、今の機体には補償かけてないけどこれだと故障したとき全額負担になる。部品の磨耗もデータ上がってたけど自己診断あれば故障する前に気付けるから、そこを推していこう」

 

「分かりました」

 

ショウタ先輩の言葉を必死にメモする。

 

「今回はβじゃなくてもいいから。αを確実に欲しいし、βと比較して金額で安い方っていうトークもいいかもな」

 

ショウタ先輩が持ってきたツールは補償キットの内容が一覧になっているものだ。

 

「機体の変更希望で予約取ってくれてるから、どの機体にするかは俺が話してくる。決まったら伝えにくるから、少し待っててな」

 

「すみません何から何まで、ありがとうございます」

 

開店5分前のチャイムが鳴る。

 

自分の鼓動がうるさい。

 

ついに、初めての販売登録だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

先週は風邪ひいて寝込んでました、すみません。

本当はこの回からお客様との会話スタートしたかったんですけど長引いちゃいました。

詰め込みすぎてますが、分かりづらいシステムあれば教えてくださいね。