おかえりいりたまご vol.3-1【手付かずのフルコース】
守る人がいると人間は強い、なんて
守られてきた人の言葉なんだろう。
真実はきっとその逆で。
強い人は守られていて、
温かい帰る場所がある。
それがすべてのように感じてしまう。
守るべきものもなく、
帰る場所すらない。
わたしは世の理から外れてしまったのか。
彼らの命と私の命が同じものとは到底思えなかった。
彼女はいつも通りソファの端にちょこんと腰かけた。
「今日は顔色がいいね」
「本当ですか?昨日は少しだけよく眠れたので、そのおかげかもしれません」
水曜日なんて週の半ばで一番気持ちがくたびれていそうなものだが、若い子にはそんなこと関係ないのかもしれない。
「そっか、それはよかった。はい、毛布」
「ありがとうございます。―――おやすみなさい」
毛布に包まった彼女は蛹のようだった。
うちにくるとまず少しうたた寝するのが習慣になってきている。
羽休めの場所に使ってくれるなら本望だと、そう思っていた。
だけど彼女はまだ高校生で、しっかりとした判断もまだできない歳で。
もしかしたらまだ羽なんて生えてないのかもしれない。
ただ、成長することにくたびれているだけなのだとしたら休息の場を与えるよりも背中を押してあげることの方が大切なのではないだろうか。
そもそもどうして彼女があの日倒れてしまうほど弱っていたのか、それすら分からないままこんなことをしていていいのだろうか。
少し体力も回復してきたようだし、そろそろ一度話をする頃合いなのかもしれない。
真面目な話をするとき人は手が暇になってしまう生き物だ。
警戒する様子もなくすやすやと休んでいる小さな青虫さんが話しやすくなるように、ひとまず何かつまめるものでも作ってあげよう。
冷蔵庫には買ってきておいた卵6͡個入りパックとケチャップが冷えている。
フライパンを取り出して、昨日まで埃をかぶっていたIHのスイッチを押した。