こためも。

嬉しいこと、悲しいこと、うまくいかないこと、ちょっぴり達成感を得られたこと、そんなことをゆるっと書き連ねていたり、カレーへの愛を語ったりしています

【クランベリー】桐谷慶の放課後

 

木々がざわめいた。

11月も下旬に差しかかり、夕方にもなると風がだいぶ冷たくなってきている。

それでもわざわざ屋外の喫煙スペースを使ってしまうのは、自分でも気づかないうちに気に入っているせいなのかもしれない。

大学図書館の裏側に設けられたこの場所は人通りも少なく、ここから先に講義棟もないため閑散としている。

クリーム色の図書館の壁がここだけ薄汚れていて、腰掛けている段差も決して綺麗ではないのだが、それもまた落ち着く要因なのだろうか。

 

ふーっと息を吐くと煙が風から逃げていった。

 

手元に視線を落とす。火が煌めくが、灰が煙草を喰っていく。

火はじわじわと押され、ついには重たくなった灰の先がぽとりと地面に落ちた。

 

もう一度口をつける気にもならず、ゆっくりと燃え尽きていく様を見ていた。

 

「お誕生日の回数が足りてないなら人目に触れるところで吸わない方がいいんじゃない」

 

声がする方に視線をやると、学科の先輩がこちらに微笑んでいた。

 

「……亜美さん。こんなところに何か用ですか」

 

「図書館の窓際の席が好きなの」

 

亜美の細い指が慶の真上、2階の窓を指した。

 

「慶くん、最近どう?」

 

「どうもこうもないですよ」

 

「いつも笑顔の優等生がそんな浮かない顔してたら驚きもするでしょう」

 

漢文専攻の学生たちから解語の花とまで称される彼女は無表情でも十分絵になった。

紺のワンピースが白い肌を際立たせる。胸に抱えた本は洋書のようだ。

 

「君のお友達も心配してたよ、最近煙草が増えてるって」

 

すたすたと隣まで歩いてきた。

 

近くで真っ直ぐに見つめられ、時が止まる。

 

薄茶色の大きな瞳に何かを見透かされているような気になって、思わず目をそらした。

 

「煙草、別にとめないよ。君はため息が下手だから」

 

頭上から降る声はいつも通りの優しい声だった。

 

「でも、お友達には何か相談とか報告とかしてあげて」

 

なんといっていいか分からず顔をあげたが彼女の後ろ姿は少しずつ小さくなっていく。

 

いつもいつも彼女は言い逃げして、返事を受け取ってくれない。

 

気づくと煙草は指をすり抜け地面に落ち、火も消えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

未成年の喫煙を助長する意図はありません。

法律は遵守しましょう。本編ではお友達がやめさせようと叱ってくれます。

 

これくらいなら週1で書けるかなぁ

まずは続けよう……