こためも。

嬉しいこと、悲しいこと、うまくいかないこと、ちょっぴり達成感を得られたこと、そんなことをゆるっと書き連ねていたり、カレーへの愛を語ったりしています

秘密のインスタント味噌汁 vol.2-1【手付かずのフルコース】

 

 

雨に打たれてすっかり冷えて

 

心細くなって暖をとろうとしたところで

 

それはたかが知れていて

 

どんなに身体をさすっても

 

手のひらが痛くなるだけだった

 

いつの間にか隣にいた彼が微笑んで言った

 

「ごまかしてもだめだよ」

 

ふっと胸が熱くなる

 

「ぼくらは内側から温まらないといけないんだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜8時にあの場所で。

 

 

 

出会ったのは金曜日だったから、土日の二日間はその場所を通らなかった。

 

 

待ち合わせには条件があった。

 

「君が元気じゃないこと」

 

悲しかったり、なんとなく調子が悪かったりするときは、うちに来ればいい。

 

そんなときは八時にあの場所で会おう。

 

 

 

月曜になって帰宅途中に通ると、人影があって思わずブレーキを踏んだ。

この調子だといつか追突されてしまうだろう。

 

 

車を寄せると彼女はぱぁっと顔を明るくした。

そんな表情は初めて見て、少し嬉しくなる。

 

「こんばんは」

 

彼女は小さな声で挨拶をして、ぎこちなく助手席に乗り込む。

学校の大きな指定鞄を膝の上に乗せ、シートベルトを締める。

 

「こんばんは、まさかいるとは思わなかった」

 

「私も、まさか来てくれるとは思いませんでした」

 

どうやらお互いに同じ気持ちだったらしい。

驚きが大きいのはおそらくこちらだとは思う。

女子高生を仕事帰りに連れ帰るなんて、そんなことがあっていいのか。

 

「知らないお兄さんの車に乗るの、怖くないの?」

 

アクセルを踏み右側を視認して車線変更しながら、少しいじわるな気持ちで聞いてみる。

 

「怖くないですよ、優しい知らないお兄さんですから」

 

彼女はうつむきながら言った。

胸を張って言えないよね。おれたちはまだお互いのこと何も知らないものね。

優しい、なんてつけても、あくまで知らないお兄さんでしかないよね。

 

 

おれたちはお互いのことは一切知らない。名前も、年齢も、日中何をしているかも。

 

 

 

 

 

 

 

車を降りてエレベーターに乗り、 そして部屋についた。

 

玄関で靴を脱いですぐ右側には寝室がある。

 

「この部屋は物置だから。絶対に扉を開けないこと。守れる?」

 

彼女は大きく頷いた。

 

 

リビングのソファに座り、彼女にも隣に座るよう手招きする。

彼女は遠慮がちに、少し離れてちょこんと腰かけた。

 

「今日は雨が降らなくてよかったね。体調はどう?」

 

「まずまず、です」

 

通学鞄を抱きかかえている彼女の顔色はそう良くない。

 

「月曜日くたびれたろ、少し寝たらいいよ」

 

ソファの端に置いておいた毛布を彼女にかける。

柔軟剤の優しい香りが彼女を包んだ。

 

「え、いや、だいじょうぶです、眠たくないです」

 

慌てたように断るが、目の下の深いクマは隠せない。

 

5分後には彼女は寝息を立てていた。

 

 

 

 

 

さあ、目を覚ました彼女に何を食べさせてあげよう。

料理をしたことのないキッチンとおれは、彼女のためにお湯を沸かした。