はじまりのシーチキン vol.1-1【手付かずのフルコース】
梅雨の真っ只中、
冷たい雨の酷い夜、
俺は女の子を拾った。
その日もいつも通りに仕事を終え自宅へ車を走らせていた。
もう6月中旬ですっかり日が長くなってきたのだが、6時の空は雨のせいですっかり暗い。
視界の悪さに少しうんざりしながらいつもの道をゆっくり辿っていく。
いつも通りに左車線を走り、いつも通りに交差点で左折して、いつも通りに長い信号に引っかかった。
そして、家も近くなってきた頃、非日常が訪れた。
左へのゆるいカーブを曲がった先の歩道に、何かが倒れている。
後ろに車がいないことを確認してすぐに歩道へ寄せる。
雨に打たれながら駆け寄る。
傘を避けると、女の子の顔が現れた。
近くの高校の制服を着ている。
「大丈夫?おれの声わかる?」
上体を抱き起こして頬をぺちぺち叩くが、反応がない。
どれくらい雨に打たれていたのかは分からないが、身体はすっかり冷たくなっていた。
「救急車って何番だ」
110か、117か、7119か、何番か思い出せない。
スマホを操作する震えた手を、彼女の冷たい指が掴んだ。
はっとして彼女の顔を見ると、口元が弱々しく動いている。
すぐに耳を寄せ彼女の言葉を聴いて、少し悩んだあとおれはスマホをしまった。